スペイン経済と移民

  先日バルセロナで地下鉄に乗っていたら、南米のインディオに似た外見の人が多いことに気づいた。

スペイン名物の小皿料理タパスを食べさせる店でも、ウエイトレスには南米風の人が目立つ。

 それもそのはず、21世紀に入ってから、仕事を求めて中南米からスペインに移住する外国人が増えているのだ。

2000年にはわずか10万人だった移民数は、2006年には6倍に増えている。

去年スペインはモロッコから53万5000人の移民を受け入れたが、次に多いのがエクアドルで、40万人がこの地に移住した。

コロンビアからも24万人、ボリビアからも13万人、ペルーからも10万人がスペインに出稼ぎに来ている。

 移民が増えている理由は、スペインの景気が良く、経済成長率が3%から4%と、EU(欧州連合)の中でも最も高い部類に属することである。バルセロナは、市民が勤勉なことで知られるカタロニアの中でも最も活気があり、ちょっとしたブームタウンの様相を呈している。

港に近い地域には、近代的な高層ビルが建てられており、目抜き通りの商店街は物凄い活気である。

最近ヨーロッパでは、空港にショッピングセンターを併設するのが流行っているが、巨大なバルセロナ空港は、休日でも買い物ができるデパートのような雰囲気だった。

1年中明るい陽光に恵まれたバルセロナは、ヨーロッパ北部に住む市民の間で、最も人気のある観光地の一つである。

 スペイン経済に活気を与えている建設業と観光産業は、ともに多数の労働力を必要とするため、同国は移民の受け入れに前向きである。

中南米からの移民の多くはスペイン語を話すため、比較的簡単に社会に溶け込むことができる。

スペイン政府は2005年に、国内で闇労働をしていた外国人75万人に、一斉に滞在許可と労働許可を与えるという、大変気前の良い決定を行なった。

経済界が労働力を必要としている上に、不法滞在の外国人に労働許可を与えれば、彼らは社会保険料や税金を払うようになる。

また外国人がマフィアなどに搾取される危険も減るので、一石三鳥なのである。

2004年にマドリードでイスラム過激派が列車を爆破し、191人が死亡する事件があったが、犯人の多くはモロッコからの移民だった。

スペイン人の間では、今のところ移民に対する反感は強まっていないが、将来景気が悪化したら、「自分たちの仕事が外国人に奪われる」という不安感を持つ市民が現われる可能性もある。

スペインが中南米からの移民の受け入れ先になるというのも、経済グローバル化の時代を象徴する現象ではないだろうか。

(文・絵 熊谷 徹 ミュンヘン在住)筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

保険毎日新聞 2007年2月